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イウナレバー
二次創作とかのテキスト。(一部の)女性向け風味かも。
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 あまのじゃくは僕を陥れなかったし百合は咲かないし人は殺さなかったし赤ん坊に潰されなかったけれど、とてもへんな夢を見た。気持ちが悪かったので僕は起きているけれど、目を開ける気分にもなれないので、僕の視界はまぶたの裏と同じ色に塗りたくられている。
 僕の部屋の隅に知らない人が座りこんでいた。僕がそれを見てすぐに夢だと分かったのは、僕の部屋の扉は施錠してあるし窓は縫い付けてあるし壁に穴は空いていないのだから当たり前のことだった。夢の中の僕の部屋でその人はじいと僕を見ていて、それがひどく不快だったので僕は罵り言葉を吐いた。その人はなにもしなかった。黙って僕を見ているだけだ。ああ、僕の部屋に勝手に入り込んだくせに、なんて奴だ! 僕は腹を立てて考え付く限りの悪口雑言を並べ立てたけれど、その人は隅でぼうっとしているばかりで、そもそも僕を見ているのかも分からない。僕の方を見ているのは確かだけれど、もしかしたら僕の後ろにあるもの=なにもない空間を見ているだけなのかもしれないと思った。それなら別に問題はないなと考えて、僕は汚い言葉を吐くのをやめた。
 その人は僕に返事をすることがない代わりに、僕を拒否することもなかった。僕の心臓が鼓動する度に溢れ出てくるコールタールみたいなものを吐き出しても嫌な顔をしなかったし、唐突に訪れるがらんどうな気分に悲鳴を上げても言葉をかけてきたりしなかったし、どうしたらいいかわからなくなって八つ当たりじみた罵倒をしてもなにもしないで座っていた。ただ僕の言葉を耳に入れながら、僕の方へぼんやりと視線を投げて、ほとんど壁に寄りかかるみたいにしているのだった。この人はきっといいひとなんだろうと思った。僕を救うことは誰にもできないだろうし向こうだって救う気はなさそうだったけれど、僕の怨嗟や嘆願や意味のないあれそれこれが僕以外の耳に届いているという事実だけで、僕はわけもなく楽しい気分でいた。
 そうしてずっと動かないで僕の話を聞いていたその人が、ある時小さく首を傾げた。あんまり小さな動きだったので見間違いかと思った僕は特に喋りたい気分でもなかったのでその辺りに視線をさまよわせていたのだけど、その人がやっぱり小さな声で、それでも何の音もない部屋に落とすには充分な大きさの声をぽろぽろと零したので、ようやく首を傾げたのは見間違いじゃあなかったんだと思い至った。部屋に落とされた言葉はし/に/た/い/のという五音節で、僕は当たり前に頷いた。その人も頷いた。
 殺してあげる、とその人は言った。
 痛いのはいやだな、と僕は思った。
 痛くないよとその人が笑ったような気がしたので(部屋には灯りがないから、その人の顔はよく見えないのだ)僕もできるだけの笑顔を浮かべてみせて(向こうにも僕の顔は見えないだろうとも思ったけれど、それでも僕が錯覚したのと同じくらいには、向こうでも錯覚してくれるかもしれないのだ)部屋の隅にいたその人が腰を上げるのを眺めていた。僕のものじゃない色をした手が僕の首にそっと触れる。機械みたいに冷たい温度は優しく僕の呼吸を止めて、僕はお礼を言う代わりに五音節を吐き出した。さようなら。さようならさようなら、さようなら。ら。らららららららららららrr。r。。 。。。
 そうして死んだ僕は夢の中から弾き出されて落ちてきて、終着地点は僕の部屋だった。床の温度は慣れ親しんで不快に暖かくて僕は目を開くことが出来ない。濁った褐色が一面に広がっているのは気持ち悪いので、目を開けようと思って、僕は床から身体を引き離した。ようやっとのことで目を開けると、部屋の隅に知らない人が座り込んでいた。変な夢だ。
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