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イウナレバー
二次創作とかのテキスト。(一部の)女性向け風味かも。
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 なにも入ってこないようになにも出て行かないようにと思って何度も何回も何遍も木工用ボンドで目張りしたばかりの窓からも雨の音がぞおぞおと這入りこんでとても不快な夜に、不快な臭いが不快だったので不快だと口にしたら不快ですかと不快な声が聞こえたので不快ですと答えた。臭いの先には学生用の蘭服を着た人がいた所を見るとどうやら僕の最後の居場所は学校にされてしまうらしい。学蘭なんかが入ってくるからいけないんだと思ったので入ってくるな出て行けお前なんか嫌いだ、という旨を丁重に伝えたところ、嫌ですよ雨の中で野宿するなんてごめんです、と応えてくれたのは学蘭ではなくて学蘭を着た人だったので僕は首を傾げる。なんでこの人が返事をするんだろう。学蘭は一向に返事をしないのに(失礼な奴だ)。
 肺胞の中でぐずぐずに煮詰められたカラメル状の苛立ちを日本語にして吐き出すすがらに、どうやってこの人は部屋に這入ってきたのだろうという一抹の疑問がふいと過ぎった。学蘭は服だからここにあるのもまだ理解できるけれど、ここに人間がいる必要はないし、そもそも目張りしたから窓は閉じてあるし、扉は僕の背中にあるのに、どうやったら人間がここに侵入できるんだろう? 学蘭を着た人はだいたい僕の方、正確には僕の腹直筋に相当する辺りに視線をやりつつ細々と口を動かす。窓が開いていたのでそこからお邪魔しましたよ、窓が開いているのがいけないんです。それはその通りだなと思ったので僕は黙った。確かに悪いのは一人きりになりたいと謳いながら外に続く道を開放していた僕の方であってこの人は悪くないというのに僕と来たら自分の非についても考えないで見知らぬ人に疑いを持ってしまっただからだめなんだ僕は駄目だもう駄目だもうやだだめだよどうしようもない。僕は泣いた。吐いた。拭いた。
 拭いた後でも少し酸っぱい臭いがするのだけれどもこれは床からくるものか胃の腑から続くものか未だ口腔にあった残滓なのかと考えていると、学蘭を着た人がにいと唇を上弦の月みたいなかたちに歪ませて、かけた眼鏡をくいと上げた。だからあなたを殺して食べます。騒がれると事ですからね、ああご家族の方もまとめて食べてあげますから残された人のことはあまり心配しなくていいですよ。――次の瞬間ぼくは快哉と感謝を叫んだ。やった! あはははは、ありがとう! ありがとう! ありがとう! ――学蘭を着た人が眉をひそめたので僕は高揚した気分を失くして沈殿して潜って黙って呻く。ああ、そうだ、あの時だってそうだった。あの時あの子は足元の一面に広がるコンクリートを見つめながら、犬が死んでしまったみたいだと言っていた。犬ってどの犬だろうと疑問に思ったので訊いてみるとあの子は通学路の途中にある青果店と神社の間に建った一軒家で飼われている犬のことだと答えたので僕は心からの快哉を叫んだ。うわあ、それは素敵だね。あの犬吠えるからこわくてきらいだったんだ、これで安心して登下校ができるよ。するとあの子は泣きだして、僕を人非人(意訳)と罵って、僕は友達を一人失くして、あの子と仲の良かった友達も友達でなくなって、その人たちと仲の良かった友達も僕の友達ではなくなってしまったので、僕は誰の友達でもなくなってしまった。あの子はとても悲しんでいたのに、僕ときたら気づかなくて、それで、それで、ああ、あああああああ、あああ、あ、ああ!
 なんだかとても悲しくて吐き気がしたので涙だか涎だか判然としないものを流したりこんな僕でも涙を流すだなんて人間的な表現が出来るのだなあと思ってくふくふ笑ったりしていると、学蘭を着た人が口元に手を当てながらあまり楽しくなさそうな声色の言葉を僕によこした→あなた、お名前はなんというのですか。この僕に名前を聞くだなんてひどいやつだ、この学蘭を着た人はきっと人が嫌がる姿を見て性的に興奮する類の変態であるに違いない。変態? 変態! 変態だって! 気持ち悪い! 気持ちが悪くて嬉しくなった僕は気持ちが悪い学蘭を着た変態の人を横目にしながら澱んだ空気を声帯の振動と一緒に纏めて吐き出して、学蘭を着た人はその音を聞いて怪訝さを強くしたので尚更嬉しくて僕は黙る。ああ今日はいい日だなあ、本当にいい日だ、あ、あは、ふふふ、食べる為に殺してもらえるなんて、まるでそんなの、生き物みたいだ。嬉しいなあ、嬉しいなあ、嬉しいなあ。嬉しくても名前の音素は吐き出さないで、脾臓の一番奥のところへこびり付いたままにしておく。僕が口に入れて→噛んで→呑み込んで→胃液と一緒に吐き出したばかりの牛の名前を僕は知らない。
 不快な臭いがする。酸っぱいような、生臭いような、腐ったみたいな、人間みたいな。ここには人間なんかいないのに(だってこの部屋には入り口がない)。
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