忍者ブログ
<< 2024/05 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  >>
イウナレバー
二次創作とかのテキスト。(一部の)女性向け風味かも。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 テニス部に入って一年とちょっと、テニスがちゃんとできるようになってからは半年前後。それだけの期間ほとんど一緒に練習していただけのことはあって、深司の球筋はなにも考えなくてもだいたい読める。手癖で打つとこういう球になるとかこっちのコースが得意であっちは苦手とか、説明はできなくっても感覚で理解できるのだ。それは深司に限ったことじゃなくて、男テニ部員はみんなそんな感じ。なにしろ7人しかいないからね。
 俺に深司の球筋がだいたい読めるってことは俺の球筋も深司にだいたい読まれてるってことで、だからラリーは自然と長くなりがちになる。深司は大技でどかーんと相手を抜き去るぜーっていうよりは小技で点を稼ぎながら相手のミス待ちするような戦法だし、俺は俺でボールを拾いまくるのにそこそこ向いてるわけで、組み合わせ自体ラリーを長くするような感じになっちゃってるところもあるし。
 視界の端で順番待ちしてる桜井と内村が「ラリー長いな!」「やっぱあいつら、攻撃性が足りないよなー」「攻撃力がなー。もっとこう、神尾の左目にぶち当てて前髪めくるとかして欲しいな」「前髪どころじゃねえだろ!」とケラケラ笑っているのがとてもうるさい。お前らにボールぶつけんぞ。
 それでもまあ集中を取り戻せばそんな雑音はどこかへするっと飛んでいってしまうので、俺は足音とボールの弾む音のリズムだけを聞き取ればいい。そうやってリズムが上がってくるうちにボールが短くなってきて、俺も深司も前に出てきている。この辺で奥側に打てれば決まりそうなもんなんだけどなー、なんて思っているところに球出しみたいなゆるーいボールがやってきた。俺はたぶんしたり顔を浮かべているところ。リズムもハイ。これで決めるぜ。
 ちらっと上の方に目をやって狙いを定め、打ってくださいとやってきたボールにトップスピンかけて思いっきり振り抜く。打ち上げられたボールは狙ったポイントを頂点にして急落下。練習通り、ベースラインちょい手前くらいに向かう軌道で落ちる。うん。すげえいいリズムじゃん?
 これには追いつけねえだろうと高をくくった俺の目に、だけど映ったのはとっくにベースライン近くまで下がってる深司の姿だった。あれおかしくね、さっきまでもっと手前にいたじゃん――さっきの打ち頃ボールを飛ばした後、すぐに後ろの方へ下がったのかな? 俺がボール打つより前に? あれ? もしかして、俺の行動読まれすぎ?
 ボールの軌道に合わせて下がりながら、深司は足を止めずにラケットを掲げて振りかぶってスマッシュってすっげー軽い感じでさらっとそういうことすんのやめろよなんなのアイツ! 今度のボールは勢いもあるし少し遠いし結構不意打たれてるんだけど、俺の反応速度とダッシュ力によってどうにかこうにかラケットに当てることに成功。俺じゃなかったら今ので完全に抜かれてたとこだ。負けても腐っても事故ってもスピードのエースだかんね俺。
 でも深司は超余裕で俺がいるのと反対側のネット際にぽーんとボールを打ち込んで、流石の俺もこっちには追いつけない。それでもまあぎりぎりのところまでは行ったんだけど、スライディングもしてみたんだけど、届かなかったなら1センチ差でも1メートル差でもおんなじことだ。このゲームは俺の負け。リズム終了のお知らせ。
「絶対やると思った」
 地べたに尻をついたままの俺を見下ろして珍しくにいっと(人の悪そうな)笑顔で言う深司がうざかっこよくて、どっちかっていうとまあうざいに傾いてて、ぶっちゃけむかつく。なんだよこいつ、人を誘いに乗っかりやすいバカみたいな言い方しやがって。
「失礼だな。そりゃ、バカだとは思ってるけど……」
「失礼だな!」
「今お前、ロブ練習してるだろ」
「えっやだちょっと見てたの?」
「うん、そりゃ、視界には入るし……他に見るものなかったし……」
「マジかー。……あ、もしかしてお前それでロブ返す練習してたの?」
「えーやだちょっと見てたの? ……あれ、それ見てて、なんでロブ返されてびっくりしてんの……ああ、俺のことナメてんな……むかつく……調子乗るなよ、神尾のくせに」
「ナメてねえし! そういう意味じゃねえし! ちょっ、蹴んなよおい馬鹿」
 軽くつま先で俺の太ももを蹴ってくるのに足首つかんで止める形で応戦してると、桜井がやってきて「ちょっとー超ジャマなんですけどー」とラケットでつっついてきたので大人しく立ち上がってコートを出て、桜井バーサス内村の試合を観戦に入る。あーつっかれたー。この休憩終わったら次の練習は、なんだったっけ……。
「くっそー、あれで勝ったと思ったのによう」
「いいじゃん別に、一回負けたくらいで……俺さっき負けたからこれでちょうどだろ」
「読み負けた感がくやしいの。リズム狂うわー」
 だいぶ長いこと一緒にテニスやってても、ちょっと気を抜いただけでも相手の次の行動とかやりたいこととかはすぐに読めなくなっちゃうわけだ。基本のところがだいたい読めるようになった分もあって、なんつーかこう、友達への理解が足りないみたいでなんかやだなっていうこの感じ。別にテニスの出来と友情的なものが関わってくるなんて思ってるわけじゃないんだけど、これはあくまでも感覚的な問題。俺が思ってるほど俺は頭良くないし底も深くなくって、案外人のこと見てる深司が俺が深司にそうするよりもちょっと深いところまで覗き込めてる感じがして、それはバランスが悪いと思う。そういうのなんかやだし、よくないことじゃないかと思う。釣り合いっていうのはわりと大事だ。読まれっぱなしが気に食わない以上、俺はなにか対抗策を練らねばならない。
「こうなったらあれだな」
「あー、あれね……」
「そう、あれだよ」
 読まれて返されるのが嫌なら、読まれても返されなければいいのだ。
「来るって分かってても打てないくらいのやつをかまさないとな」
「……その発想はおかしいだろ」
「俺の発想の転換マジ天才じゃね?」ってハイなリズムで言ったのに、深司は不思議なものを見る顔で「神尾の考え方マジ意味分かんない」と小さくつぶやく。俺への理解が足りないぜ深司。ふふん。まだまだだね、って言ったら深司の表情が一瞬ですげー嫌そうな顔に変わって、あと俺の靴が的確に踏まれて、マジで痛いし靴に茶色い土汚れがついてるしでなにやってんだこの野郎って声を上げたら内村が「うるせえボールぶつけんぞ!」って言いながら俺らに向かって全力でボール打ってきやがった。ノーバウンドで俺に向かって来たボールを我ながら神がかった瞬発力で神回避したら、ちょっと離れたところで順番待ちしてた橘さんと石田が「おい内村危ないだろう!」「ちょっと内村ー!」ってつっこみながらも声が笑ってるし、審判やってた森は爆笑してるし、桜井に至っては俺たちにぶつけるためのボールがどっかに転がってないか目を走らせてやがる。ふざけんなよ内村この野郎! テニスボールは人にぶつけるためのものじゃねえんだぞー!!
PR
NAME
TITLE
COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
忍者ブログ [PR]